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特許ありきではない知財戦略|技術現場から発明を発掘し、事業競争力を高める

工場での実験に同行し、技術者と一緒に発明を発掘する

先日、埼玉県越谷市にある某工場を訪問しました。

目的は、レーザー装置を用いたロボットの実験に同行し、実際の技術開発の現場で特許戦略を検討することです。

新宿から電車で約1時間。

現地では、多くの技術者や関係者が集まり、実験の準備が進められていました。

当日は、元・無限(MUGEN)の代表も実験のために来社されており、技術者、設計者など、複数の関係者が参加する実験となりました。

私も実験工場に入り、目を保護する専用メガネを装着して実験に立ち会いました。

実際にロボットを動作させてみると、一定の動作は確認できたものの、実験結果からはさまざまな技術的課題が浮かび上がってきました。

しかし、私にとって重要なのは、実験が成功したか失敗したかという結果だけではありません。

実験によって明らかになった技術的な課題や、従来技術では解決できなかった問題の中に、新たな発明の種が隠れていることがあるからです。

私は、技術者や設計者と課題を共有しながら、ロボットの技術思想を整理し、どの部分に技術的な特徴があるのかを探っていきました。

その過程では、当然ながら分からないことも出てきます。

そこで、技術者や設計者に次々と質問を投げかけます。

なぜ、その構造にしたのか。

従来の構造では何が問題になるのか。

別の構成に変更した場合、どのような不具合が生じるのか。

今回の実験で確認できた現象は、どのような技術的原理によるものなのか。

こうした質問を繰り返すことで、設計者自身も普段は意識していなかった技術的特徴が明確になることがあります。

これが、私の考える現場での発明発掘です。

発明発掘では技術思想を抽出する

特許出願において重要なのは、単に装置の構造や動作を文章にすることではありません。

その技術が、どのような課題を解決し、どのような技術的思想に基づいて構成されているのかを把握することです。

例えば、あるロボット装置について、設計図面に記載された構造だけを見ていても、発明の本質を十分に理解できない場合があります。

実際の実験に立ち会うことで、図面や仕様書だけでは分からなかった動作上の特徴や、技術者が工夫した部分が見えてくることがあります。

また、実験で発生した不具合や予想外の現象から、新しい技術的解決手段が生まれることもあります。

私は、こうした現場で得られた情報を整理しながら、発明提案書に落とし込める技術的特徴を抽出していきます。

さらに、特許出願を検討する際には、先行技術文献との対比も重要です。

既に知られている技術と今回の技術との相違点を把握し、どの部分に新規性や進歩性を見いだせるのかを検討します。

先行技術を知っているからこそ、技術者との議論の中で、特許として保護すべきポイントをより具体的に発掘できるのです。

もちろん、最終的な権利化の可能性は、先行技術調査や具体的な請求項の検討を踏まえて判断する必要があります。

弊所の知財戦略は特許ありきではない

ここで、私が特に重視している知財戦略について説明します。

それは、特許を取得すること自体を目的にしないという考え方です。

特許権は、企業の競争力を高めるための手段です。

特許を取得することが、必ずしも企業にとって最善の選択になるとは限りません。

むしろ、技術によっては特許出願をしない方がよい場合もあります。

私は、まず事業における技術の位置付けを考えます。

そして、技術を大きく競争領域と協調領域に分けて検討します。

競争領域ではブラックボックス化と特許化を使い分ける

他社との競争力を左右する技術については、最初にブラックボックス化できるかどうかを検討します。

ブラックボックス化とは、技術の内容を外部に公開せず、秘密情報として管理することです。

特許出願を行えば、出願公開などを通じて技術内容が公開されます。

特許権を取得することで一定期間の独占的な権利を得られる一方、技術内容を公開するという側面もあります。

そのため、他社が技術内容を容易に把握できず、秘密として管理し続けられる技術であれば、あえて特許出願をせず、営業秘密として保護する選択肢があります。

例えば、製造条件、独自の調整方法、装置内部の制御パラメータなどは、技術の性質によっては秘密管理が有効な場合があります。

ただし、営業秘密として保護するためには、秘密管理性、有用性、非公知性などの要件を満たす必要があり、適切な情報管理体制も不可欠です。

一方、製品や装置を見れば技術内容が容易に分かってしまう場合や、他社による模倣を防止する必要がある場合には、特許出願による保護を検討します。

つまり、すべてを特許化するのではなく、秘密にすべき技術と権利化すべき技術を見極めることが重要なのです。

協調領域では標準化特許の可能性を考える

次に、事業における協調領域について考えます。

企業活動では、すべての技術を他社との競争対象にする必要はありません。

業界全体で共通の仕様や技術基盤を形成した方が、市場そのものが拡大する場合もあります。

そのような技術については、標準化活動との関係を考慮し、標準規格に関連する特許、いわゆる標準必須特許(SEP)を含めた知財戦略を検討することがあります。

標準化活動に参加することで、自社技術を業界標準に反映できる可能性があります。

また、標準規格に関連する特許を保有することで、ライセンスなどを通じた事業機会につながる場合もあります。

ただし、標準化活動には各標準化団体のルールや特許開示・ライセンス条件が存在します。

したがって、標準化活動への参加と特許出願のタイミングを含め、事業上のメリットとリスクを慎重に検討する必要があります。

このように、競争領域と協調領域とでは、知的財産の活用方法が異なります。

知財戦略は、技術の性質だけでなく、企業の事業戦略や市場での立ち位置を踏まえて設計する必要があるのです。

特許は取得することよりも取り方が重要

特許は、取得すればそれだけで企業の競争力が高まるというものではありません。

権利の取り方を間違えれば、実際の事業にほとんど役立たない特許権が量産されてしまうこともあります。

例えば、技術的な特徴を十分に把握しないまま、目先の構造や構成だけを請求項に記載してしまうと、他社が少し設計変更しただけで権利範囲から外れてしまう可能性があります。

また、実際の事業で使用する技術と、特許請求の範囲との間にズレが生じていれば、せっかく特許権を取得しても十分に活用できません。

特許出願を検討する際には、少なくとも次のような視点が必要です。

  • 自社の事業にとって重要な技術は何か。

  • 他社が模倣する可能性のある技術は何か。

  • 競合他社の参入を防止したい領域はどこか。

  • 将来的な技術展開や製品展開をどこまで想定するか。

  • 他社が設計変更した場合にも権利行使できるか。

  • 特許化せず、営業秘密として管理した方がよい技術はないか。

こうした検討を経て、初めて事業に役立つ特許権を設計できると考えています。

特許戦略と事業戦略は、一体不可分の関係にあります。

そのため、弁理士は出願件数や出願手数料、成功謝金などを優先して判断してはいけません。

時には、特許出願をしないという提案をすることも必要です。

私は、弁理士としての報酬を度外視してでも、クライアントの事業にとって何が最善なのかを考えるべきだと思っています。

特許戦略とともに重要な商標戦略

知的財産戦略というと、特許権に注目が集まりがちです。

しかし、事業を成長させるためには、商標戦略も非常に重要です。

特に、商品やサービスに使用する商標は、企業のブランディングに大きな影響を与えます。

どれだけ優れた技術を開発し、優れた商品を製造したとしても、その商品名やブランド名が消費者に認識されなければ、ブランドとしての価値を十分に形成できません。

商標を検討する際には、単に登録できるかどうかだけでなく、商品やサービスの内容、ターゲットとなる顧客、競合商品との関係、消費者に与える印象なども考慮する必要があります。

覚えやすいか。

呼びやすいか。

商品やサービスのイメージと合っているか。

将来的にブランドとして成長する可能性があるか。

こうした視点から商標を選定し、適切な商品・役務の範囲で権利化することが重要です。

特許戦略と商標戦略は別々のものではありません。

技術を保護し、商品をブランド化し、事業全体の競争力を高めるという意味で、両者を一体的に考える必要があります。

弁理士は単なる手続屋ではない

私は、弁理士は単なる特許出願や商標登録の手続を代行するだけの存在ではないと考えています。

クライアントが本当に必要としているのは、特許証や商標登録証そのものではありません。

自社の事業に役立ち、競争力を高め、将来の事業展開を支える知的財産権です。

そのためには、まずクライアントの事業を理解しなければなりません。

どのような商品やサービスを提供しているのか。

どのような顧客を対象としているのか。

競合他社は誰なのか。

どの部分で競争優位性を確保したいのか。

そして、顧客のさらに先にいるエンドユーザーが何を求めているのか。

こうした情報を把握することによって、初めて事業に適した知財戦略を提案できるようになります。

今回の工場での実験同行も、単に特許出願のために技術を確認することが目的ではありません。

実際の技術開発の現場に入り込み、技術者と議論し、技術思想を抽出し、その技術が事業においてどのような価値を持つのかを考えるためです。

私は、こうした現場主義の知財実務を大切にしています。

特許を取得することだけを目的とせず、特許、営業秘密、標準化、商標などを組み合わせながら、クライアントの事業にとって本当に役立つ知財戦略を提案する。

それが、私の考える弁理士の役割です。

知的財産権は、取得することがゴールではありません。事業の競争力を高めるために活用してこそ、その価値が発揮されるのです。

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