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特定侵害訴訟代理業務
付記弁理士 西村 知浩
弁理士の仕事というと、特許出願や商標登録など、特許庁への手続をイメージする方が多いと思います。
特許・実用新案・意匠・商標の出願や権利化は、弁理士の重要な業務です。
しかし、私が考える弁理士の仕事は、それだけではありません。
企業の事業戦略に基づく知的財産戦略の立案、特許権や商標権の侵害紛争への対応、さらには知的財産権の価値評価まで、企業経営に関係する幅広い領域に及びます。
私は30歳で弁理士として独立開業し、現在まで25年間、一人事務所を経営してきました。
その間、大企業の特許出願を中心とする仕事から、中小企業やベンチャー企業の知財経営を支援する仕事へと、事務所の経営方針を大きく転換しました。
現在、私の事務所では、次の3つを主要な業務領域としています。
知財戦略の立案から出願・権利化まで
知的財産権の侵害警告から訴訟対応まで
知的財産権の価値評価・鑑定
今回は、私の独立開業後の経歴を振り返りながら、弁理士として取り組んでいる三大業務について解説します。
私が弁理士として独立開業した当初は、大企業の知的財産部や特許部に電話営業を行い、特許出願の仕事を受注することが中心でした。
大企業の知財部や特許部が作成した発明提案書に基づき、発明者と打ち合わせを行い、技術内容を理解したうえで特許明細書を作成し、特許庁へ出願するという仕事です。
このような仕事は、一定の取引関係が構築されれば、継続的に案件を受任できるというメリットがあります。
また、発注元が大企業であるため、報酬の回収という面でも比較的安定しています。
特許事務所の経営モデルとしては、所員を雇用し、多数の特許出願を処理するというスタイルです。
独立開業した弁理士にとって、大企業との継続的な取引は魅力的なものだと思います。
私自身も、当初はそのような経営モデルを目指していました。
しかし、実際に事務所を経営していくうちに、ある問題に直面することになりました。
開業して10年ほど経過した頃、私は事務所の経営方針を大きく変更することを決断しました。
それまで取引していた大企業との関係を整理し、中小企業を中心とする事務所に転換しようと考えたのです。
理由は、報酬と業務量のバランスでした。
当時の私は、十分な報酬をいただけない条件で、多くの特許出願業務を処理していました。
仕事をしている割には経費もかかり、なかなか利益が残りません。
このままの経営を何十年も続けていけば、自分の身体が持たなくなるのではないかと考えるようになりました。
専門家として長く仕事を続けていくためには、受任件数を増やすだけではなく、一件一件の業務に見合った報酬をいただくことが重要です。
そこで、取引先の大企業に経営方針の変更を伝え、順次、取引を終了していきました。
当時、唯一継続していた大企業との取引の一つに、パチンコメーカーがありました。
私は月に一度、名古屋のメーカーへ出向き、半日ほどかけて発明の打ち合わせを行っていました。
この企業からは弁理士標準報酬額に沿った報酬をいただいており、非常にありがたい取引でした。
その後、このメーカーとはM&Aによって他企業に合併されるまで、継続してお付き合いをさせていただきました。
この経験から、私は事務所の経営において、単に売上や受任件数を追いかけるのではなく、どのようなお客様と、どのような条件で、どのような仕事をするのかが重要だと学びました。
大企業中心の経営から転換するにあたり、私は中小企業を専門とする弁理士事務所を目指すことにしました。
その一環として、東京都中小企業振興公社の外部機関である東京都知的財産総合センターの相談員にも応募し、採用されました。
当時は、特許事務所を経営しながら、隔週で一日、秋葉原にある知財センターへ出向き、東京都内の中小企業の経営者に対して知的財産に関する助言を行っていました。
この相談員の仕事は10年間続け、現在は退職しています。
多くの中小企業の経営者と直接お話しすることで、知的財産に関する課題だけでなく、経営上の悩みや事業展開の方向性についても考える機会を得ました。
同時に、事務所のホームページを立ち上げ、中小企業向けの情報発信と集客を開始しました。
それまで継続していたブログによる情報発信も集客に役立ち、少しずつ中小企業との取引が増えていきました。
現在は、中小企業を中心に、連続起業家が率いるベンチャー企業やスタートアップ企業の知的財産戦略にも力を入れています。
企業の成長段階や事業内容に応じて、必要な知的財産を見極め、日本国内だけでなく外国での権利取得まで支援しています。
こうした経験を通じて、私の弁理士業務は、単なる出願代理から、企業の事業戦略に関与する知財経営支援へと広がっていきました。
私の事務所の第一の業務は、知財戦略の立案から特許・商標・意匠などの出願・権利化までの一貫支援です。
一般的には、企業から発明の説明を受け、特許明細書を作成して特許庁へ出願するという流れをイメージすると思います。
しかし、私が重視しているのは、出願の前段階です。
そもそも、その企業の事業にとって、どのような知的財産が必要なのかを考えるところから始めます。
例えば、新しい製品を開発する企業であれば、次のようなことを検討します。
どの技術を特許権として保護するべきか
どの技術は営業秘密として管理するべきか
競合企業に対してどのような優位性を確保するか
商品名やサービス名について商標権を取得する必要があるか
製品の外観やデザインを意匠権で保護できるか
日本だけでなく外国でも権利を取得する必要があるか
このような検討を、経営者や役員の方々と一緒に進めていきます。
場合によっては、知財調査を行い、競合企業の権利や従来技術を把握することもあります。
また、海外展開を予定している企業であれば、どの国で事業を展開するのか、どの国で知的財産権を取得するのかについても検討します。
現地法人の設立や、他企業とのアライアンスなど、事業戦略と知財戦略が密接に関係することもあります。
知財戦略が固まったら、具体的な出願・権利化の段階に進みます。
例えば、特許出願の場合、私の事務所で特許明細書の初稿を作成し、それをたたき台として経営者や技術担当者と内容を充実させていきます。
発明の技術的な詳細や実施形態については、実際に開発を担当した技術者が最もよく理解しています。
そのため、発明者や技術担当者へのヒアリングを重視し、必要な技術情報を特許明細書に反映させます。
日本への特許出願が完了した後は、必要に応じてPCT国際出願や各国への移行手続を進めます。
さらに、特許だけでなく、商標を活用したブランド戦略や、意匠を活用したデザイン戦略も同時に検討します。
私が目指しているのは、単に特許権を取得することではありません。
企業の事業戦略に適合した知的財産ポートフォリオを構築し、その知的財産を事業競争力につなげることです。
第二の業務は、特許権や商標権などの知的財産権に関する紛争対応です。
企業が特許権や商標権を取得すると、第三者との間で権利侵害をめぐる問題が発生することがあります。
例えば、他社から特許権侵害や商標権侵害を理由とする警告書が届くケースです。
反対に、自社の権利を侵害していると思われる他社製品やサービスを発見し、権利者側から警告を行うケースもあります。
私の事務所では、他社から侵害警告書を受け取った企業の代理人を務めることが比較的多くあります。
一方、ベンチャー企業などの知財支援を行っていると、大企業に対して特許権や商標権の侵害警告書を内容証明郵便で送付することもあります。
侵害警告を受けた場合、まず重要なのは、相手方の主張を正確に分析することです。
特許権侵害であれば、特許請求の範囲を解釈し、対象製品や方法との技術的な対比を行います。
商標権侵害であれば、商標の類否、指定商品・役務との関係、使用態様などを検討します。
さらに、相手方の権利そのものに無効理由が存在しないか、先使用権などの抗弁が成立する可能性がないかといった点も検討します。
侵害警告を行う側であれば、自社の権利の有効性や侵害の成立可能性を慎重に確認する必要があります。
私は、訴訟を提起することや提起されることは、紛争解決のための最後の手段の一つだと考えています。
そのため、まずは法的な分析に基づく反論や交渉を行い、合理的な解決を目指します。
実際に、侵害警告をきっかけとして、相手方との交渉が進み、最終的にアライアンス契約に至った事例もあります。
対立関係にある企業同士であっても、交渉によって双方にメリットのある関係を構築できる場合があります。
もっとも、交渉による解決が難しい場合には、訴訟などの法的手続を検討しなければなりません。
私自身、特許権侵害を理由として訴えられた案件にも携わってきましたが、相手方による訴えの取下げなどにより、依頼人側に有利な形で終了した事例も経験しています。
知的財産権の紛争では、技術的な理解と法律的な分析の両方が必要になります。
単に法律論を展開するだけでなく、技術的な構成を正確に理解し、相手方の主張の弱点を見極めることが重要です。
私は機械工学を専門としており、技術分野の理解を活かしながら、特許権や商標権などの紛争対応に取り組んでいます。
なお、訴訟代理については、弁理士の法定代理権の範囲や弁護士との共同対応など、案件に応じた適切な体制を整えることが必要です。
第三の業務は、知的財産権の価値評価・鑑定です。
これは、特許権や商標権などの知的財産が、経済的にどの程度の価値を持つのかを分析・評価する業務です。
企業が保有する知的財産は、単に権利として登録されているだけではありません。
事業収益を生み出す資産になったり、他社との差別化につながったり、事業譲渡や企業価値の評価に関係したりすることがあります。
例えば、次のような場面で知財価値評価が必要になることがあります。
金融機関から融資を受ける際の知的財産の分析
ベンチャーキャピタルなどから投資を受ける際の知的財産の評価
特許権や商標権などを譲渡する際の価格検討
企業買収や事業譲渡に伴う知的財産の評価
ライセンス契約における対価の検討
知的財産を活用した事業戦略の検討
私の事務所では、当事務所が出願代理を担当した権利だけでなく、依頼人が以前から保有している知的財産権についても価値評価を行っています。
これまで数十件の知財価値評価に携わってきました。
知財価値評価では、財務会計の知識だけでなく、知的財産そのものに対する深い理解が必要です。
例えば、ある特許権の価値を評価する場合、その特許がどのような技術的優位性を持つのか、対象製品の売上や利益にどの程度貢献しているのか、競合技術に対してどのような優位性があるのかなどを検討します。
さらに、評価対象となる知的財産を誰が保有し、どのような事業で利用するのかによっても、その経済的な価値は変わります。
そのため、知財価値評価は、単純に計算式へ数字を代入すれば答えが出る業務ではありません。
評価に用いる前提条件や仮定の設定が非常に重要です。
例えば、将来の売上予測、利益率、権利の存続期間、競合技術の存在、事業の成長可能性など、さまざまな要素を検討する必要があります。
また、計算によって得られた数値だけが独り歩きしてしまうことにも注意しなければなりません。
定量的な評価だけでなく、技術的な優位性、事業への貢献度、権利の有効性や権利範囲などを踏まえた定性的な分析が重要になります。
知的財産権の価値は、常に一定ではありません。
同じ特許権であっても、利用する企業や事業の内容、競争環境によって経済的な価値は変わります。
知財価値評価は、知的財産を経済価値に結びつける、いわば知財のマネタイズを支援する業務です。
今後も、私の事務所で力を入れていきたい専門領域の一つです。
ここまで、私の事務所が取り組んでいる三大業務について説明してきました。
改めて整理すると、次のとおりです。
第一の業務:知財戦略から出願・権利化まで
企業の事業戦略に基づいて必要な知的財産を見極め、特許・商標・意匠などの権利取得を支援します。
第二の業務:知的財産権の侵害警告から訴訟対応まで
権利侵害をめぐる紛争について、技術的・法律的な分析を行い、交渉や法的手続を通じた解決を支援します。
第三の業務:知的財産権の価値評価・鑑定
企業が保有する知的財産の技術的・経済的な価値を分析し、融資、投資、譲渡、ライセンスなどへの活用を支援します。
この三つは、それぞれ独立した業務であると同時に、相互に関連しています。
知財戦略によって取得した権利を、侵害紛争への対応に活用することもあります。
また、取得した知的財産を価値評価し、事業譲渡や資金調達などに活用することもあります。
つまり、知的財産は、取得して保有するだけでは十分ではありません。
企業の事業活動の中で活用し、競争力や経済価値につなげていくことが重要です。
私は30歳で独立開業してから25年間、さまざまな企業の知的財産案件に携わってきました。
開業当初は特許出願の仕事が中心でしたが、現在は企業の事業戦略や経営課題にも関与するようになりました。
これからも、特許・商標・意匠などの権利化にとどまらず、知財紛争への対応や知財価値評価まで、企業の知的財産を幅広く支援していきたいと考えています。
知的財産は、企業にとって守るべき財産であると同時に、事業を成長させるための武器でもあります。
その武器をどのように取得し、守り、活用するのか。
それを企業の経営者と一緒に考え、実行していくことが、私の弁理士としての役割です。
知は、武器になる。
弁理士ともちゃん

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