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付記弁理士 西村 知浩
特許庁審査官との合同研修から進歩性の意義が見えてきた
先日、INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)が主催する、特許庁審査官との特許の進歩性に関する合同研修に参加しました。
今回の研修では、進歩性の判断が微妙な事例を題材に、審査官と弁理士との間で活発な意見交換が行われました。
進歩性を肯定する意見と否定する意見とで見解が分かれ、簡単には結論がまとまりません。
しかし、私は、それでよいと考えています。
法律の解釈や事実の評価について異なる見解が存在することは、決して不自然なことではありません。
むしろ、どのような事実を重視し、どのような論理によって結論を導くのかを掘り下げることに、合同研修の意義があるのではないでしょうか。
今回取り上げられたのは、実際に特許庁の審判・異議申立てを経て、知的財産高等裁判所で判断された事例でした。
私は、裁判所の判断だからという理由だけで、常にその結論を絶対視する必要はないと考えています。
特許法の趣旨や条文、審査基準、具体的な技術的事情を踏まえ、自らの頭で考えることが重要です。
研修で取り上げられた事例を、発明の構成要素A~Fを用いて整理してみます。
それぞれの構成要素の関係は、次のとおりです。
この事例では、当初、A・B・Cからなる発明について特許が登録されました。
その後、特許異議申立てが請求され、特許庁では取消決定がされました。これに対して知財高裁で争われ、最終的に逆転判決に至ったという経過があります。
ここで注目したいのは、特許異議申立ての手続における訂正と、知財高裁における阻害要因の判断との関係です。
特許異議申立てでは、Bについて阻害要因があるとの主張が認められず、権利者はD・E・Fを追加する訂正を行いました。
ところが、その後の知財高裁では、Bについて阻害要因が認められるという判断が示されました。
その結果、A~Fの構成で特許が維持されることになったのです。
つまり、Bに係る阻害要因が認められていれば、当初のA・B・Cという構成についても、進歩性を肯定する方向で判断する余地があったことになります。
この点から、私は、権利者にとって厳しい結果となった事例だと考えました。
この事例の重要な問題は、D・E・Fという構成を追加した訂正の必要性です。
当初のA・B・Cという構成について、Bの阻害要因が認められるのであれば、D・E・Fを追加しなくても、当初の構成で特許を維持できた可能性があります。
一方、異議申立ての段階では、その阻害要因が認められず、権利者は特許を維持するために請求項を限定する対応を選択しました。
結果として、後の裁判所の判断によって、権利者が追加した限定の必要性について、改めて考えさせられることになりました。
もちろん、実際の手続においては、当時の証拠関係や判断の見通し、訂正要件などを踏まえた対応が必要です。
後から示された裁判所の判断だけをもって、当時の対応が誤りだったと断定することはできません。
しかし、特許の権利範囲を維持するという観点から見れば、こうした事態にどのように備えるべきかを考えることは重要です。
この事例から得られる教訓の一つは、基本特許の出願において、分割出願を含めた権利化戦略を検討しておくことです。
特許出願では、審査段階で拒絶理由を解消するために請求項を限定することがあります。
しかし、その限定によって、当初確保しようとしていた権利範囲が狭くなる場合もあります。
また、特許が登録されれば、それで将来の紛争に対する備えがすべて整うわけではありません。
登録後の特許異議申立てや無効審判などによって、権利の有効性が争われる可能性もあります。
そこで、出願時から発明の本質的な構成と、それに付加される技術的構成とを整理し、必要に応じて分割出願を活用することが考えられます。
分割出願によって別の請求項構成について権利化を目指せるようにしておけば、原出願の審査や権利化の状況に応じて、対応の選択肢を確保できる場合があります。
もっとも、分割出願は無制限に行えるものではありません。
原出願の明細書等に記載された事項、分割の時期、適法性、審査の進行状況、追加費用などを踏まえ、個別に判断する必要があります。
重要なのは、単に特許を取得することだけを目標にするのではなく、将来の権利範囲や紛争まで見据えて、出願時から戦略を考えておくことです。
今回の研修では、この事例を踏まえ、審査官との間でさらに踏み込んだ議論をしました。
私は、同じグループの審査官に対し、仮に審査段階であれば、A・B・Cという構成で特許査定をすることができるのではないか、と質問しました。
これに対し、審査官からは、権利範囲が広すぎるため認められない、という趣旨の見解が示されました。
そこで私は、特許法上の拒絶理由に該当するかどうかと、請求項の権利範囲が広いと感じるかどうかとは、区別して考える必要があるのではないかと反論しました。
特許法第29条第2項に基づく進歩性の判断では、当業者が先行技術に基づいて容易に発明をすることができたかどうかが問題になります。請求項の権利範囲が広いということだけで、直ちに進歩性が否定されるわけではありません。
もちろん、請求項の記載要件や明細書による裏付けなど、進歩性とは別の特許要件について検討が必要な場合はあります。また、先行技術の調査によって新たな拒絶理由が明らかになることもあります。
しかし、拒絶理由の有無は、法律上の要件と具体的な事実に基づいて判断されるべきです。
この点について、研修では審査官と意見が分かれ、議論が白熱しました。
私は、特許査定を行うかどうかは、特許法上の要件に照らして判断すべきであり、権利範囲の広さに対する感覚だけで結論を決めるべきではないと考えています。
特許制度の目的を考えると、特許は単に登録件数を増やすためのものではありません。
発明を保護し、技術の活用や事業活動につなげることが重要です。
そのため、出願時の請求項設計、審査段階の補正、分割出願の活用、登録後の異議申立てや無効審判など、それぞれの手続を個別に考えるだけでは十分ではありません。
一連の手続が、最終的な権利範囲や事業上の目的にどのような影響を及ぼすのかを見据える必要があります。
今回の合同研修では、特許庁審査官と率直に意見を交わすことができ、進歩性の判断や特許権利化のあり方について、改めて考える機会となりました。
私は、発明の技術的特徴を正確に把握し、拒絶理由への対応だけでなく、将来の権利活用や紛争まで視野に入れた知財実務を大切にしています。
特許出願、拒絶理由通知への対応、分割出願、特許異議申立てなどでお悩みの企業様は、弁理士ともちゃんまでご相談ください。

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