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付記弁理士 西村 知浩
PCT国際出願では、一つの国際出願に複数の発明を含めることがあります。
その場合、国際調査機関(ISA)から「発明の単一性を満たしていない」と判断され、複数の発明について国際調査を受けるためには、追加の調査手数料を納付するよう求められることがあります。
今回は、私が実際に経験したPCT案件を一つの実務事例としてご紹介します。
なお、依頼者の秘密保持の観点から、具体的な技術内容や出願人を特定できる情報については省略しています。
あるPCT国際出願について、国際調査機関から発明の単一性について指摘を受けました。
一つの国際出願の中に、複数の発明群が含まれていると判断されたためです。
今回の案件では、結果的に8つの発明群が認識され、追加の国際調査手数料の納付を求められました。
しかも、請求項の数は全部で120項に及んでいました。
通常、このような通知を受けると、
「追加手数料を納付して、すべての発明について国際調査を受ける」
という対応を考えることになるでしょう。
しかし、私は今回の案件について、少し違った角度から検討しました。
今回、8つの発明群についてすべて追加手数料を納付すると、かなり大きな金額になります。
一方、出願人は小規模企業でした。
そこで、
「本当にすべての発明について、追加の調査を受ける必要があるのか」
という点を検討しました。
これは、単純な費用削減の問題ではありません。
国際調査によって何が分かるのか。
すでに行われた調査結果から、他の発明についても新規性・進歩性を判断するための情報が得られるのではないか。
追加の調査が、本当に必要なのか。
こうした観点から案件全体を検討しました。
今回の案件では、複数の発明群が含まれていましたが、それぞれについて全く異なる技術事項を展開していたわけではありませんでした。
そのため、上位の発明群について国際調査が行われれば、その調査結果を基礎として、他の請求項についても新規性・進歩性を検討できる可能性があると考えました。
特に重要なのは、
「単一性違反があるかどうか」という形式的な問題だけを見るのではなく、「追加の国際調査が本当に必要なのか」という実質的な観点から案件を見ること
です。
そこで、私は国際調査機関の担当者とも電話で話し、今回の出願について追加の調査が必要となるのか、その必要性について説明・協議しました。
もちろん、国際調査機関の判断を弁理士が自由に変更できるという意味ではありません。
あくまで、案件の技術的な内容と既に行われた調査との関係を踏まえて、追加調査の必要性について検討したものです。
最終的に、追加手数料については一部の発明についてのみ納付しました。
ところが、その後、8つの発明群、120請求項について、特許性を判断するためのサーチ結果を含むサーチレポートを受領することができました。
当初は、すべての発明について追加手数料を納付することも考えられる状況でした。
しかし、実際の調査結果を見ると、結果として広い範囲の請求項について先行技術との関係を確認することができました。
この経験から、PCTの単一性違反に対応するときには、通知書を受け取って単純に追加手数料を納付するだけではなく、
「その追加調査によって何が得られるのか」
を考えることが重要だと感じました。
PCTの単一性違反への対応では、追加手数料を納付するか否かという二択だけで考えると、判断を誤る可能性があります。
重要なのは、
といった事項を、一つの案件として総合的に考えることです。
PCT出願は、国際段階だけで完結するものではありません。
その後、各国へ国内移行することになります。
したがって、国際段階での単一性違反への対応を検討するときも、その先にある国内段階まで見据える必要があります。
今回の案件についても、日本への移行後には、複数の発明を含むことを理由として単一性が問題となる可能性がありました。
そこで、国際調査の結果を確認した上で、日本移行後の補正についても検討することになります。
具体的には、
国際段階で19条補正を行うのか、それとも日本の指定官庁への移行後に自発補正を行うのか
など、今後の手続の選択肢を検討する必要があります。
つまり、PCTの単一性違反への対応は、
「今回の追加手数料をどうするか」
だけを考える問題ではありません。
国際調査の結果を、その後の各国での権利化戦略にどうつなげるか
という視点が重要になります。
PCTの手続には、国際出願、国際調査、国際予備審査、各国移行など、さまざまな制度があります。
しかし、実際の案件では、制度を一つずつ機械的に当てはめるだけでは十分ではありません。
一つの出願の中にどのような発明が含まれているのか。
それぞれの発明がどのような関係にあるのか。
どの発明について先行技術調査が必要なのか。
依頼者が最終的にどの国で、どの発明について権利化したいのか。
こうした事情によって、適切な対応は変わってきます。
私はPCT案件についても、
「通知が来たから、そのとおりに手続する」
というだけではなく、
「この案件では、何を目的として、どの手続を選択するのか」
という視点を大切にしています。
もちろん、今回の私の案件で追加手数料の一部のみを納付したことが、すべてのPCT案件に当てはまるわけではありません。
発明の内容、請求項の構成、単一性違反の内容、国際調査機関の判断、既に得られている調査結果などによって、適切な対応は異なります。
したがって、
「単一性違反を指摘されたら、追加手数料を払わなくてもよい」
という話ではありません。
むしろ重要なのは、
追加手数料を納付することによって何が得られるのかを具体的に検討し、その費用と効果を踏まえて判断すること
です。
場合によっては、すべての追加手数料を納付することが合理的なケースもあります。
反対に、既に得られている調査結果などを踏まえると、追加調査の必要性を慎重に検討すべきケースもあります。
PCT国際出願のメリットの一つは、国際段階で国際調査を受け、その結果をその後の各国での権利化戦略に利用できることです。
そのため、国際調査報告や国際予備審査の結果を単なる「手続書類」として見るのではなく、
その後の各国での特許取得をどう進めるかを考えるための情報
として活用することが重要です。
今回の案件でも、国際調査の結果を確認することによって、その後の日本での補正や権利化について検討する材料を得ることができました。
PCT国際出願で単一性違反を指摘されると、追加手数料の納付を求められることがあります。
その際、
「言われたから追加料金を払う」
という対応だけではなく、
「追加調査によって何が得られるのか」
を考えてみることが重要です。
そして、
まで含めて、案件全体を見ながら判断します。
今回の案件は、結果として、追加手数料の一部を納付することで、8つの発明群・120請求項についてサーチ結果を得ることができました。
これは一つの個別案件における経験であり、すべてのPCT案件にそのまま当てはまるものではありません。
しかし、この経験から私が改めて感じたのは、
知財実務では、目の前の手続だけを見るのではなく、その手続が最終的な権利化にどのようにつながるのかを考えることが重要である
ということです。
PCT国際出願では、国際段階から各国での権利化までを見据えて、発明の内容、調査結果、費用、将来の権利範囲を総合的に検討する必要があります。

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