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付記弁理士 西村 知浩
特許出願をすると、審査の結果として「拒絶理由通知書」が届くことがあります。
このとき、引用文献に似た技術が記載されているからといって、単純に「似ていない」と反論すればよいわけではありません。
重要なのは、
「本願発明は、引用発明と何が違うのか」
そして、
「なぜ引用発明から本願発明に容易に到達できないのか」
を、技術的な構成と作用効果に即して整理することです。
ここでは、実際に私が担当した家屋の免震構造に関する特許出願を題材として、拒絶理由通知に対してどのような補正と意見書による対応を行ったのかをご紹介します。
※以下は実案件を一般化・匿名化した事例です。
本願の構成が引用文献(引用発明)に記載されていた難関事例です。
今回の発明は、家屋の免震構造に関するものです。
簡単にいうと、
を設け、この第1・第2の滑り材を相互に摺動させる構造です。
さらに、それぞれの滑り材には、表面にフッ素樹脂を塗布した鋼板が設けられています。
そして、重要なのがここです。
第1・第2の滑り材は、単に「滑る」だけではありません。
家屋の重量を支持するとともに、その同じ滑り材同士の相互摺動によって摩擦減衰を得る
という構成になっています。
つまり、
重量支持と摩擦減衰を、同一の滑り材対で実現する。
これが、この発明を理解するうえで重要なポイントです。
この発明の背景には、従来の家屋免震構造についての問題意識があります。
従来技術では、土台基礎と家屋との間に鋼板を配置して、地震時に家屋を滑動させる構造が提案されていました。
しかし、鋼板と木材との間では、十分な減衰機能を発揮させることが難しいという問題がありました。
そこで、木材と鋼板との滑りを良くするために蝋を利用する構成が採用されていました。
ところが、蝋には粘性があります。
そのため、
といった問題が生じます。
そこで、発明者は、従来の「木材と鋼板との滑り」という関係を見直しました。
そして、
家屋を支持する滑り材そのものを相互に摺動させ、その摺動によって摩擦減衰を得る
という構成を採用したのです。
今回の拒絶理由では、主として二つの先行技術文献が引用されました。
一つは、アンカーボルト等を利用した家屋の減震装置に関する文献です。
もう一つは、フッ素樹脂を利用した滑り支承と緩衝材による家屋の免震構造に関する文献です。
一見すると、どちらも本願発明にかなり近い技術です。
実際、審査官による引用文献の認定では、
などについて、本願発明との対応関係が示されていました。
このような場合、単に「引用文献の発明とは構成が違います」と主張するだけでは十分ではありません。
そこで、私は本願発明の技術的な核心を改めて整理しました。
今回、特に重要だったのが、
「フッ素樹脂を使っていること」が発明の本質なのではない
という点です。
フッ素樹脂を滑り面に利用する技術自体は、従来から知られています。
したがって、
「引用文献にもフッ素樹脂があります」
と言われただけでは、強い反論にはなりません。
そこで、発明の構成全体を見直しました。
本願発明では、
第1の滑り材と第2の滑り材が家屋の重量を支持する。
そして、
その同じ第1・第2の滑り材が相互に摺動することによって摩擦減衰を得る。
つまり、
「重量を支える部材」と「摩擦によって振動を減衰させる部材」を別々に考えるのではなく、同じ滑り材対に両方の機能を持たせている。
ここに技術的な特徴があります。
この点を意見書の中心的な主張として整理しました。
第1の引用文献は、アンカーボルト等による拘束を利用した減震装置に関するものです。
この文献では、摩擦によって地震エネルギーを吸収するだけでなく、
といった複数の機能を組み合わせています。
特にアンカーボルトは、建物の離反や解体を防止するための重要な構成として説明されています。
そこで意見書では、
引用文献1の技術的な目的・構成・作用効果を考えると、アンカーボルト等による拘束を単純に取り除いて、本願発明の構成に変更する動機付けは見いだしにくい
という点を指摘しました。
つまり、引用文献1から本願発明に至るには、単に部品を置き換えるだけではありません。
引用文献1が採用している技術的な考え方そのものを変更する必要があります。
第2の引用文献は、フッ素樹脂からなる滑り面と緩衝材を利用した家屋の免震構造です。
こちらは本願発明との類似性がさらに高く、
などが記載されています。
一見すると、
「それなら本願発明も容易に考えられるのではないか」
と思われるかもしれません。
しかし、この文献では、緩衝材によって過大な変位を抑制し、原位置への復帰を促進することが重要な作用として説明されています。
そこで、
本願発明は、緩衝材に依存するのではなく、第1・第2の滑り材そのものの相互摺動によって摩擦減衰を得る構成である
という違いを整理しました。
もっとも、引用文献2には「緩衝材を用いない場合」についての記載もあります。
ここを無視することはできません。
そこで、意見書では、引用文献2自身が示している比較結果を踏まえて反論しました。
引用文献2では、緩衝材を用いた場合について、
といった効果が説明されています。
したがって、緩衝材を用いない状態の記載は存在するものの、それは直ちに、
「緩衝材を除けば、本願発明のような重量支持+摩擦減衰という構成になる」
という教示を意味するものではありません。
ここが重要なポイントです。
先行文献に「ある構成を使わない例」が書かれていることと、その構成を積極的に排除して別の技術思想を採用することは、同じではありません。
拒絶理由への対応では、引用文献を一つずつ検討するだけでは不十分な場合があります。
複数の引用文献を組み合わせれば、本願発明に容易に到達できるのではないか、という点も検討する必要があります。
今回も、
引用文献1+引用文献2
という組合せを検討しました。
しかし、
引用文献1はアンカーボルト等による拘束・衝撃吸収を重視する技術、
引用文献2はフッ素樹脂による滑り面と緩衝材による変位制限・原位置復帰を重視する技術です。
これらを組み合わせただけで、
第1・第2の滑り材によって家屋重量を支持し、しかも、その同じ滑り材対の摺動によって摩擦減衰を得る
という本願発明の構成に直ちに到達するわけではありません。
特許の進歩性判断では、単に複数の技術が存在するかどうかだけではなく、主引用発明から本願発明へ至る論理付けができるかどうかが問題になります。
特許庁の審査基準でも、技術分野・課題・作用や機能の共通性、引用発明中の示唆などによる動機付けに加え、阻害要因や有利な効果なども考慮する考え方が示されています。
今回の案件を通じて、特許の拒絶理由対応で重要だと改めて感じたことがあります。
それは、
「引用文献に似た技術があるか」だけを見るのではなく、発明の技術的な関係性を見ること
です。
今回でいえば、
「フッ素樹脂がある」
「鋼板がある」
「滑り材がある」
「家屋の免震構造である」
という個々の要素だけを比較してしまうと、本願発明の特徴が見えにくくなります。
しかし、
重量支持を行う第1・第2の滑り材が、そのまま摩擦減衰を担う。
という関係性まで含めて発明を捉えると、引用文献との比較のポイントが明確になります。
今回のような拒絶理由対応では、意見書だけで反論するのではなく、必要に応じて特許請求の範囲を補正することも重要です。
ただし、補正をすれば何でもよいわけではありません。
今回も、
を確認しながら、どこまで補正できるのかを検討しました。
補正によって発明の特徴を明確にする一方で、出願当初の明細書等に記載した事項との関係にも注意する必要があります。
つまり、
「拒絶理由をかわすためだけの補正」ではなく、「もともとの発明の核心を、請求項上でも明確にする補正」
を目指すことが重要です。
特許の拒絶理由通知を受けたとき、私は次の順番で検討します。
まず、審査官が、
どの引用文献の、どの記載を、請求項のどの構成に対応させているのか
を確認します。
請求項を構成要件ごとに分解し、
を整理します。
引用文献に記載されている内容を、単なるキーワードではなく、一つの技術として把握します。
「どこが違うのか」を明確にします。
仮に相違点があったとして、
当業者が引用発明から本願発明へ容易に到達できるのか
を検討します。
複数の引用文献がある場合には、
なぜそれらを組み合わせるのか
という動機付けまで検討します。
最後に、明細書等の記載を確認しながら、発明の本質が請求項に明確に表れるよう補正を検討します。
特許の拒絶理由対応では、引用文献との細かな一致点・相違点を追いかけるだけでは、議論が複雑になってしまうことがあります。
そのようなときこそ、
「この発明は、結局何を実現した発明なのか?」
というところまで戻ることが重要です。
今回の免震構造についていえば、
第1・第2の滑り材を家屋重量の支持部材として構成し、その同一の滑り材対の摺動によって摩擦減衰を得る。
という一文に、発明の特徴を集約することができました。
このように発明の本質を言語化すると、引用文献との違いだけでなく、なぜその構成に至ることが容易ではないのかについても、議論を組み立てやすくなります。
拒絶理由通知を受けたときに大切なのは、単純に、
「この引用文献の構成とは違います」
と主張することではありません。
重要なのは、
①本願発明の構成を正確に把握する
②引用発明の技術的内容を正確に把握する
③両者の相違点を明確にする
④引用発明から本願発明に至る動機付けがあるかを検討する
⑤複数文献の組合せまで検討する
⑥必要に応じて、発明の本質が明確になるよう補正する
という一連の作業です。
特に、引用文献に一見すると非常によく似た技術が記載されている場合でも、
発明を構成する各要素がどのような技術的関係にあるのかを丁寧に検討することで、
拒絶理由への対応方針が見えてくることがあります。
私は、単に「似た技術があるか」を調べるだけではなく、
引用発明が、なぜその構成になっているのか。
引用発明から、なぜ本願発明に至らないのか。
というところまで掘り下げて、拒絶理由への対応を検討しています。
難しい拒絶理由通知でお困りの方は、ぜひご相談ください。
「引用文献に似た構成がある」だけでは進歩性が否定されない!

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