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付記弁理士 西村 知浩
弁理士として仕事をしていると、思いがけないチャンスが訪れることがあります。
しかし、それは突然、空から降ってくる幸運ではありません。
これまで積み重ねてきた実務経験、難しい案件から逃げずに取り組む姿勢、そして依頼人との信頼関係。
その積み重ねが、新しい仕事につながっていくのです。
私は30歳で独立開業して以来、新宿二丁目で一人の弁理士として仕事を続けてきました。
人を雇わず、事務所をむやみに拡大せず、自分自身の専門性を磨き続ける。
そんな経営スタイルを貫いてきた私にとって、仕事の面白さは、単に大量の案件を処理することではありません。
難しい問題を解決し、依頼人の事業を前に進めることです。
あるとき、重要な特許が取り消される可能性のある案件について、私に相談が持ち込まれました。
それまで数百人規模の特許事務所が担当していた案件です。
状況は決して楽観できるものではありませんでした。
私は難しい問題に直面すると、むしろ反骨心に火がつきます。
「何とかして、この特許を守りたい。」
その思いで案件を引き受け、徹底的に検討を始めました。
もちろん、弁理士だからといって、依頼人の発明や事業内容を最初からすべて理解できるわけではありません。
そこで必要になるのが、依頼人との対話です。
発明の技術的な特徴は何か。
その発明は、事業の中でどのような役割を果たすのか。
特許請求の範囲を変更した場合、事業にどのような影響が生じるのか。
私は依頼人に何度も質問し、協議を重ねながら、発明と事業への理解を深めていきました。
弁理士が法律や技術の知識だけで仕事を完結させようとしても、限界があります。
依頼人の協力を得ながら、事業を理解し、その事業を支えられる権利の形を考える。
これが、実務において極めて重要なのです。
案件の処理は簡単ではありませんでした。
特許庁からは、二度にわたって取消理由通知が示されました。
それでも私は、依頼人との協議を続けるとともに、特許庁の審判部合議体とも面談を重ねました。
依頼人の事業を理解する。
取消理由を正確に把握する。
事業への影響を考慮しながら、特許請求の範囲を検討する。
そして、必要な修正を加え、再び協議する。
この繰り返しです。
特許の権利範囲は、単に広ければよいというものではありません。
事業との整合性を保ちながら、法的に維持できる権利を構築することが重要です。
最終的に、特許庁から了承の回答をいただき、特許は無事に存続することになりました。
私は電話でその知らせを受けたとき、思わずガッツポーズをして飛び上がりました。
すぐに依頼人のCEOに朗報を伝えに行ったことを、今でもよく覚えています。
難しい案件を最後までやり抜き、依頼人と喜びを分かち合う。
これこそ、私が弁理士という仕事を続けている理由の一つです。
この案件を通じて、依頼人との信頼関係はさらに深まりました。
その後、事業のブランディングに必要な商標についても、私から提案し、日本国内だけでなく海外での権利化を進めることになりました。
さらに、顧問先の事業戦略をめぐる協議の中で、グローバル規模のプロジェクトに関する大きな仕事を任せていただくことになりました。
海外展開に伴う知的財産の管理は、単に外国へ特許や商標を出願すれば終わる仕事ではありません。
事業の方向性を理解し、各国で必要な権利を検討し、限られた資金や時間を考慮しながら、知財戦略全体を組み立てる必要があります。
そこでは、特許、商標、外国出願、発明発掘、事業戦略など、さまざまな要素を総合的に考える力が求められます。
一つの難案件に真剣に取り組んだことが、次の仕事につながる。
そして、次の仕事で新しい課題に挑戦する。
私は、こうした循環こそが、専門家としての成長と事業の発展を支えていると考えています。
弁理士の仕事は、特許明細書を書いたり、商標登録出願をしたりすることだけではありません。
もちろん、正確で質の高い出願書類を作成することは、弁理士の基本です。
しかし、それだけで終わってしまっては、知的財産の可能性を十分に活かせない場合があります。
私は、依頼人の事業を理解し、発明を発掘し、権利範囲を検討し、必要に応じて異議申立て、審判、訴訟などにも取り組んできました。
知的財産の問題は、事業の問題と切り離せません。
依頼人が何を実現したいのか。
そのために、どのような権利が必要なのか。
取得した権利を、どう事業に活かすのか。
そこまで考えてこそ、知財の専門家として提供できる価値が大きくなると考えています。
難しい案件を引き受けることには、当然リスクもあります。
すべての案件で望んだ結果が得られるわけではありません。
だからこそ、事実関係を丁寧に調べ、法的な問題を分析し、依頼人と十分に協議し、最後まで考え抜く必要があるのです。
私は、事務所を大きくすること自体を目標にはしていません。
人を雇い、組織を拡大することだけが、事業の成長ではないからです。
一人で仕事をするからこそ、自分自身の専門性、判断力、実行力を磨くことができます。
もちろん、海外代理人をはじめとする外部の専門家や協力者との連携は欠かせません。
一人で仕事をすることと、すべてを一人だけで完結させることは違います。
大切なのは、事業の規模を大きく見せることではなく、自分が提供できる価値を高めることです。
難しい案件に対応できる実力を身につける。
依頼人の事業を理解する。
専門家として信頼される仕事をする。
そして、その価値に見合った報酬をいただく。
こうした積み重ねがあれば、一人の専門家であっても、大きなプロジェクトに関わることができます。
私は、弁理士として一人で売上2億円を目指すことも、十分に挑戦する価値のある経営目標だと考えています。
もちろん、売上は専門分野、顧客構成、案件の規模、外部費用、業務負担などによって大きく変わります。
売上だけを追い求めればよいという話ではありません。
重要なのは、安売りや大量処理に依存するのではなく、自分にしか提供できない価値を高めることです。
私は、依頼人から期待されると、やる気に火がつくタイプです。
難しい案件ほど、何とか解決したいと思う。
依頼人が本気で事業に取り組んでいるなら、私も本気で応えたい。
そのために、必要なことを調べ、考え、質問し、協議を重ねる。
もちろん、仕事には冷静な判断も必要です。情熱だけで解決できる問題ばかりではありません。
それでも、専門家としての情熱と、地道な実務の積み重ねは、決して無駄にはならないと信じています。
30歳で独立した私が、長年にわたって一人の弁理士として仕事を続けてこられたのも、依頼人や協力者の皆様に支えていただいたからです。
これからも、難しい知財案件から逃げず、依頼人の事業と真剣に向き合っていきます。
弁理士なら、一人で売上2億円を上げろ。
これは、すべての弁理士が同じ経営をすべきだという意味ではありません。
私自身が、専門性を磨き、提供価値を高め、その可能性を追求していくための目標です。
知は、武器になる。
そして、その武器を磨くのは、日々の実務経験なのです。

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