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スタートアップ時は特許戦略が何よりも重要!
ただし、特許権を数多く取得すれば良いというものではないよ。
特許権や意匠権などの知的財産権は、単に権利を取得することが目的ではありません。
事業活動において知的財産権を有効に活用し、自社の事業力を強化し、事業収益に結びつけてはじめて真価が発揮されます。知的財産権を取得する目的は、まさに事業力の強化ひいては事業収益の向上です。
知的財産戦略(知財戦略)とは、知的財産権を経営戦略において定義するところからはじめ、知的財産権をどのように取得して、事業戦略にどのように活かし、企業経営にいかに貢献させるのか、を明確にするシナリオです。
知的財産戦略は、事業戦略と共に、経営戦略の両輪となるべきもの。
知的財産戦略は、ある製品を例に挙げると、全体の流れとして、
の事業戦略の流れの各段階において常に検討され、事業戦略と一体となって進んでいきます。
製品や商品の企画は、先ず市場のニーズから始めます。
市場ニーズが出発点です。
間違っても技術シーズの押し売りは避けなければなりません。
市場のニーズを徹底的に調査して、そのニーズに合わせて自社の強みを活かせる製品や商品を企画していきます。
このときに重要なことは、ビジネスモデルの構築。
どのようなポイントで収益化を図るのか、先立つコストとの関係で融資や投資も計画していきます。
いかに良い製品や商品を企画しても、ビジネスモデルがブレていては、ダーウィンの海を乗り越えることはできない。
知財戦略のポイント!
製品開発の方向性が決定したら、製品や商品の設計・試作に入ります。
最初から完璧な製品や商品を完成させることはできません。
設計⇒試作⇒失敗⇒設計の修正⇒試作⇒失敗⇒設計の修正⇒試作⇒…繰り返し
設計や試作については自社内部にリソースがなければ、外注先を探し、提携することが有効です。
ホームページ検索や展示会などに積極的に参加して交流を図ることをおススメ。
知財戦略のポイント!
設計・試作の目途がつけば、製品や商品の量産化計画に入ります。
量産化といっても、受注生産なのか、見込生産なのかを決定するわけですが、最初は受注生産で進めることがほとんどです。
このため、ロット数に応じて生産してもらえる外注先を再度精査していきます。設計・試作でお世話になった外注先で量産が可能なら、引き続き、提携していくことも有効です。
知財戦略のポイント!
自社又は他社の販売チャネルを利用して、製品や商品を市場に提供していきます。
自社のホームページやウェブサイトでの商品販売に加え、代理店による販売、販売促進を得意とする企業の提携も検討していきます。
知財戦略のポイント!
自社の製品や商品は市場に出すと、お客さまの厳しい評価を受けます。
これこそ、ものづくりメーカーの宿命といえますね。
お客さまの評価は、常に良いものばかりではなく、時としてクレームが寄せられます。お客さまからのクレームを受けると頭が痛くなりますが、クレームこそ最大のチャンスだと前向きに捉えて、自社の製品・商品の開発を絶えず見直していく姿勢こそが重要!
知財戦略のポイント!
知的財産権を取得する本来の目的は、
市場において侵害者を排除して自社の営業活動を有利にし、事業収益に貢献すること。
したがって、自社の知的財産権を侵害する者に対しては徹底して警告や交渉を行い、侵害者を自社製品の市場から追い出したり、ライセンス契約を締結するなどの強い姿勢が必要です。
知的財産権は財産権であることから、侵害者に対し、差止請求や損害賠償請求が可能です。
ただし、特許権者といっても、やみくもに訴訟を乱用することは絶対にあってはなりません。
たとえ訴訟で勝ったとしても、権利行使の仕方によっては、相応の訴訟費用や時間、労力、社会的評価の失墜が発生します。
知的財産権の性質をよく理解して、自社の企業経営にとって最も有益となるように、うまく活用していく必要があるのです。
知的財産権は、自社の事業戦略と研究開発戦略と共に、三位一体で検討していくべきもの。知財の活用には深い考察と第三者に対する配慮が必要になります。
ノウハウとは、製品の開発・製造などに必要な技術・知識・経験などの情報を指し、多くのビジネスアイデアもそれに含まれます。
最も多くやってしまう間違いは、ノウハウの内容を特許出願の明細書に記載して出願することです。確かに特許にはビジネスモデル特許や生産方法の特許が含まれ、ノウハウ的な要素の強い情報は時として特許査定のポイントになることがあります。
しかしながら、特許出願をすれば、1年6か月経過後に明細書の内容等が公開されるため、国内だけでなく、外国の同業者にも知られてしまいます。企業の営業秘密となるべきノウハウが競合他社に漏出する事態になり、企業競争において圧倒的に不利な立場に陥ります。
そこで、ノウハウを含む情報を特許出願するか、営業秘密として厳重に管理するかについては、事業戦略を考慮した慎重な検討が必要になります。
ここで、特許とノウハウを比較します。
特許 | ノウハウ |
特許庁に出願・登録が必要 | 手続は不要 |
権利期間は有限 | 期限は制限無し |
取得・維持するための費用が必要 | 秘密管理が必要 |
公開により技術漏出・模倣のおそれ有り | 秘密管理のため漏出・模倣が困難 |
権利期間は法的に独占実施が可能 | 不特定者に知られたら秘匿性無し |
ノウハウが不正競争防止法によって法的な保護を受けるためには、以下の要件が必要になります(不正競争防止法第2条第6項)。
営業秘密を含むノウハウについて、もし特許出願をすれば、その内容が公開されることによりノウハウが第三者に知られてしまいます。このため、ノウハウに関しては、敢えて特許出願を行わず、秘匿にしておく戦略も重要です。
しかしながら、何らかの原因で、そのノウハウが社外に漏れた場合には、特許権などの権利がないため、打つ手が無くなります。不正競争防止法による法的保護を受けることも可能ですが、現状ではとてもハードルが高いものと考えてください。
したがって、この場合に備えて社内の秘密保持のルールを策定しておき、それに従い秘密情報の管理を徹底しておく習慣付けが必要不可欠になります。万一、従業員あるいは第三者の行為によりノウハウが社外に漏れた場合、その違法性を主張するためにも秘密情報の管理をしっかり行っていたことを証明できるようにしておきます。
他社がそのノウハウと同じ技術について特許権を後から取得した場合には、当該他社から特許権侵害の警告が発送されるおそれがあります。この場合には、その技術を他社の出願日前から先行して実施していたことを証明できる証拠を保管しておくことが重要です。例えば、その技術が記載されている実験ノートや業務日誌などの資料に日付を入れ、公証役場で認証を得ておくことも有効になります。
アルゴリズムは
ブラックボックスの検討も必要
ソフトウエア発明は、これまで数多く特許出願されています。ソフトウエア発明に関して特許権を取得することは特許戦略上、とても有効です。
ただし、ソフトウエア発明の特徴が、アルゴリズムや演算式等の数式にある場合、敢えて特許出願せずに、ブラックボックスにして営業秘密にする方法もあります。
アルゴリズムや演算式等を含んだ特許権を取得しても、それを回避することは技術的に難しくありません。
そうであれば、あなたの会社でアルゴリズムや演算式等に特徴のある発明の特許権を所有していた場合、競合他社は、設計変更等により自由に実施することができてしまいます。
それだけではありません。
あなたの会社のソフトウエア特許の内容が公開されているため、世界中であなたの特許技術が公知になっています。このため、あなたの会社の特許内容が競合他社に漏れてしまいます。
つまり、特許権で十分に保護することができない反面、技術内容がダダ洩れの状態になっているのです。
そのような事業リスクを冒すくらいなら、敢えて特許出願せず、ソフトウェアの部分をブラックボックスにして営業秘密として厳重に管理していくことも戦略のひとつです。
例えば、回路基板に搭載するマイクロチップの場合、マイクロチップが分解できないように工夫したり、マイクロチップが分解されたことが判明する技術を搭載します。
この例では、マイクロチップが分解できない構造や分解判明の技術について特許出願することは有効です。
さらに、マイクロチップを基板に搭載した場合に、他の回路要素とのインターフェースの部分について特許権を取得する戦略もあります。
要するに、肉眼で見える部分についてのみ特許権として保護し、それ以外の部分はブラックボックスとして営業秘密にしておく戦略です。
なお、ソフトウエア発明については、欧州特許庁(EPO)や中国特許庁(SIPO)の特許審査でとても厳しく審査されます。広い範囲の特許権を取得することは困難です。
このようにソフトウエア発明については、常に事業戦略の観点から特許戦略を考え、出願権利化するのか、秘密にしておくのかについて検討していく必要があるのです。
技能はノウハウとして秘密管理
あなたの工場で重宝する生産技術。
特に工場内だけで完結する加工方法や生産方法については、ノウハウとして秘密に管理することも検討すべきです。
これらはあなたが特許出願して特許権を取得することも可能ですが、特許出願すれば特許庁で全世界に向けて公開されてしまいます。このため、同業他社に技術がバレてしまい、ノウハウを盗まれるリスクを伴います。
仮に特許権を取得しても、模倣者は自社の工場内でこっそりと模倣するため、特許権侵害の成立を立証することが困難です。侵害者の工場といえども、裁判所の許可がない限り、あなたが勝手に立ち入ることはできないからです。
そう考えると、加工方法や生産方法に関して特許権を取得したのはいいけれど、世界中にノウハウがバレてしまい、同時に特許権侵害を問うことが極めて困難な状態になってしまいます。
このように、加工方法や生産方法については、特許出願せずに、ノウハウとして社内で秘密管理しておく対策が有効になります。
なお、ある特殊な加工方法を実施して、加工品にその痕跡が残るような性質の技術は、加工品という物に関して特許出願し、特許権を取得することも戦略としてあり得ます。肉眼で加工品の痕跡を見つけることができれば、特許権侵害の立証も容易になります。
何を特許にして、何をノウハウとして秘密管理するかについては、常に検討していきましょう。
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