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意匠って何だろう?

意匠登録制度の概要

私たちは、日常生活や職場などで、多くの製品に囲まれて快適な生活を送っています。私たちは、日々多くの製品を購入していますが、どのような視点から製品を選択するでしょうか?当然ながら製品の価格や性能を気にしますが、製品のデザインにも大きく影響されていると思います。

例えば、はじめてスマホを買うためにワクワクしてショップへ行くと、店頭には数えきれないほどの端末を目にします。同じ性能をもつ製品が多数並べられているとしたら、多くの人はデザインの良いほうを選ぶのではないでしょうか。また、下着、洋服やアクセサリーなどのように、デザインが気に入ったという理由のみで買う製品もあるかもしれません。さらには、初期セットやテーブルセットのように、機能・目的が違う個々の製品でも、統一的なデザインでシリーズ化されていたりすると、ついつい全部買いそろえてしまいたくなります。

このように、製品のデザインは、消費者の購買意欲に大きな影響を与えています。優れたデザインを施した製品は、より多く、より高い値段で売れていきます。つまり、製品のデザインには財産的な価値があるのです。製品のデザインには美的外観として価値があり、それは企業が事業で勝つために重要な要素になります。

現在、製造メーカーでは、厳しい価格競争のなかで、より高い付加価値をもった製品を開発するために、機能・性能面の向上だけでなく、デザインの研究開発にも力を入れています。

このように、製品のデザインである意匠は、消費者の購買意欲を引き出すという財産的な価値をもっています。このような財産的な価値を有する意匠を保護するのが意匠法の役割です。意匠法は、工業的に利用できる新しい製品デザインを創作した者に対し、一定の期間、一定の条件のもとに、独占排他的な権利を与えることによって保護する法律なのです。

意匠登録制度とは

意匠法は、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与すること(意匠法第1条)」を目的としています。

意匠法が保護の対象とする工業的意匠の創作活動は、使いやすさ、美しさ、作りやすさなど、物品の価値の向上を追求して創作されます。すなわち、意匠法が考える意匠の創作とは、物品の価値を向上させる物品の形態の創作という意味に捉えることができます。

意匠を保護することにより、物品の価値を向上させる形態を持った製品が市場に流通するようになれば、需要者の満足度は高まり、「産業」という側面を通じて国民生活を豊かにすることができます。

意匠を考えたら、意匠登録を受ける権利が発生するよ!

意匠登録を受ける権利とは、意匠の創作により発生し、その権利者は創作者(デザイナー)です。企業内デザイナーの場合も同じです。デザイナーが創作した意匠を利用する企業は、デザイナーから「意匠登録を受ける権利」を譲り受けなければ意匠登録を受けることばできません。デザイナーは、意匠登録を受ける権利を譲渡しない限り、自ら意匠登録出願をして、意匠権を取得することができます。

企業内デザイナーのように、企業における職務として意匠を創作する場合、「職務創作意匠」として扱われ、一般に勤務規則などで意匠登録を受ける権利の企業への譲渡について規定されています。この場合であっても、創作者には企業から利益を受ける権利があり、多くの企業では報酬規定が定めされています。
ただし、中小企業では、職務創作意匠に関する報酬規定がほとんど定めされておらず、企業の経営課題となっています。

フリーデザイナーの場合は、デザイン契約において成果物の扱いの取り決めとして、意匠登録を受ける権利の扱いを定める必要があります。

意匠法の枠組み

権利主義とは

意匠法の根底をなす基本理念は、権利主義です。
権利主義とは、意匠の創作をした者は「意匠登録を受ける権利」に基づき、国家に対して意匠登録を請求し、この請求に基づいて国家は意匠登録を行い意匠権を設定する、というものです。このように、権利主義とは、意匠登録又は意匠権の基礎を「意匠登録を受ける権利」におく考え方をいいます。権利主義のもとでは、国家は法定の要件を備えた意匠に対して、権利の設定を拒絶することができません。

登録主義とは

登録主義とは、意匠権は設定の登録により発生する、というものです。
設定登録より意匠権が発生して初めて実体的な保護が開始されます。設定登録までは、意匠登録を受ける権利は存在するものの、意匠登録を受ける権利によって他人の実施を規制することはできません。したがって、意匠を創作した後、設定登録を受けるまでの期間は、意匠法によって他人の実施を排除することができないのです。

審査主義とは

わが国の意匠法は、特許法および商標法と同様に、審査主義を採用しています。審査主義とは、登録を受けるための法定の要件を備えているか否かを特許庁で審査し、登録要件を満たしているものに権利を設定するというものです。

先願主義とは

先願主義とは、特許庁に最先に出願した出願人にのみ権利を認める、というものです。意匠権は、たとえ模倣ではなくても、他人の実施を排除できる強力な権利です。このため、同一の対象に対する権利は一つでなければならず、同一内容の意匠について複数の出願が発生したときにはいずれか一方にしか権利を認めることはできません。先願主義とは、同一内容の複数の出願に対し、一方の出願に調整するためのものです。

意匠法上の「意匠」とは

意匠法の保護対象

意匠法で保護する意匠は、「物品(物品の部分を含む)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と規定されています。意匠法はデザイン保護法といわれていますが、デザインのうち物品の形態に係るものだけが意匠法の保護対象とされます。

このような定義規定は次のような概念に分けて考えることができます。
第一に、意匠は物品に係るものでなければならないということです。これを意匠の物品性といいます。
第二に、意匠は、形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合を要素とするものでなければならないということです。これを意匠の形態性といいます。
第三に、意匠は視覚を通じて美感を起こさせるものでなければならないということです。これを視覚性および美感性といいます。

物品に係るものであること

意匠は物品に係るものでなければならず、原則として、1物品ごとに1つの意匠が成立します。物品は、流通性のある有体物たる動産と把握されています。ゲーム機は保護対象になりますが、動画ゲームの画像は保護の対象になりません。不動産である建築物、物品と離れたデザインであるタイプフェイスや標識、アイコンその他のサイン、キャラクター、ショーウィンドウのディスプレイ、噴水などは意匠法上の意匠とはなりません。

意匠の保護対象は、度重なる法改正により拡張されています。
例えば、建築物やその内装については意匠登録の対象になりました。

画像を含む意匠・画面デザインの保護

意匠権は、物品の外観を保護する制度ですが、1959年の法律が制定されたときに想定されていない事態が発生しています。その1つが画面の意匠を保護する意匠(以下「画面デザイン」)です。炊飯器や洗濯機などいわゆる白物家電が電子制御になると、家電に情報表示部が設けられるようになりました。製造メーカーは、その情報表示部に様々な情報をわかりやすく表示するように努力しています。また、パーソナルコンピュータやスマートフォンなどの出現によって、幅広い製品にも表示技術について意匠による保護が求められるようになっています。わが国では1980年代以降、情報処理技術の進展に対応するべく、随時、意匠法改正や意匠審査基準の改定を行い、画面デザインの保護拡充を図ってきています。

画面デザインの保護についても、法改正によりその制約が緩くなりつつあり、意匠として認められる形態が増加しています。

画面デザインについて

2007年4月1日以降の出願から、物品の本来的な機能を発揮できる状態にする際に必要な操作に使用される画面デザインについても、意匠の構成要素として意匠法の保護対象となりました。録画機の操作画面がテレビに表示されるなど、当該物品とは異なる物品に表示される場合でも保護の対象となります。

ただし、物品から独立して販売されるゲームソフトなどによって表示される画面デザインや、操作後の状態の画面デザインは、物品の操作画面ではないので保護されません。

部品に係るものの扱い

部品も、独立して取引の対象となるものであれば、完成品と同じように1物品として取り扱われます。例えば、完成品である「掃除機」のほか、部品である「掃除機用の吸い込み口」や「掃除機用集塵ボックス」も1物品であり、意匠登録の対象となります。このため、完成品メーカーだけでなく、例えばその下請け企業である部品メーカーであっても意匠登録を活用することが事業競争力を高めるための有効なひとつの戦略になります。

物品の部分に係るものの扱い

物品の部分は、「部分意匠」として意匠登録の対象となります。従来では物品の部分は意匠登録の対象とされていませんでしたが、後述するように法改正により「部分意匠制度」が導入され、意匠登録の対象にすることが認められました。例えば、万年筆のクリップ部分について斬新であれば意匠権を取得することが可能になります。

部分意匠制度とは・・・

「部分意匠」としての意匠登録は、1999年(平成11年)の改正意匠法の施行により可能になりました。それまでは物品全体の意匠、すなわち「全体意匠」を意匠登録の対象としていたため、斬新で特徴的な部分意匠を創作しても意匠登録は全体意匠としてなされることから、その部分意匠が共通であっても全体として類似していなければ差止請求などの権利行使を行うことができませんでした。このため、大手メーカーなどでは、同じ部分意匠を含む多くのバリエーションの全体意匠を意匠登録するといった非効率的な方法によってその部分意匠を守っていました。

この「部分意匠」の意匠登録制度の導入により、例えば自動車のフロントグリル部や情報機器の操作部など、製品のデザインの価値を決定づける重要な部分の意匠を1つの意匠登録で権利化することが可能になりました。また全体の意匠に先行して部分の意匠を創作した場合、全体意匠の決定を待たずにしてその部分意匠を出願することもできます。

企業において部分意匠制度は、プロダクトアイデンティティ(PI)の保護、効率的な意匠戦略の課題に対して重要な役割を果たしています。

組物の意匠について

「組物」とは、同時に使用される2つ以上の物品であって経済産業省令で定めるものをいい、これらの組物は組物全体として統一性があるときは「一意匠」として登録を受けることができます。たとえ、物品の構成において法上の組物に該当しても、組物全体としての統一性がなければ一意匠として保護されません。ここで、組物全体としての統一性とはデザイン上の統一性です。組物が全体として1つの統一された美感を起こさせるものとしてデザインされているときに、一意匠となるのです。

組物の意匠として出願された意匠は、実体審査において、全体として組み合わされた状態に対して新規性などの登録要件が判断されます。そして、登録された後は、全体として組み合わされた状態でのみ権利範囲が解釈され、組物を構成する1物品の意匠に類似した意匠を第三者が実施したとしても、これを差し止めることはできません。

形態を有するものであること

形態は、その物品に固有の形態であって、その属性として備えている形態をいいます。例えば、プラスチックフィルムの被包装物の外形に密着させ熱収縮させたシュリンクパックの包装形状は、被包装物なしではその形状を維持できないので、包装用プラスチックフィルムという「物品の形態」はなく、意匠法上で保護されません。

一方、紙製の手提げ袋は、折り畳んだ平面的な状態のほか、底とマチを広げて自立できるようにした立体的な形状も自力で維持できるので、共に属性として備えられた「物品の形態」として把握することができます。

なお、ナプキンを畳んで作った花や箱詰めされたセットもののように、その形状を保持できるものであっても、その形状がその物品の属性に基づいたものでない場合には「物品の形態」に含まれません。

視覚を通じて美感を起こさせるものであること

意匠は、視覚すなわち肉眼によって認識されるものでなければなりません。
物品の形状であっても、粉粒物のように肉眼に観察できないものは意匠を構成せず、保護の対象にはなりません。例えば、塩や砂糖などの粉粒物、水の分子構造などはNG。

意匠登録を受けることができる意匠とは

意匠登録の要件

意匠登録の要件は、主として以下のとおりです。

  • 工業上利用できること
  • 新規な意匠であること
  • 容易に創作できた意匠でないこと
  • 公序良俗に反する意匠でないこと

工業上利用できること

工業上利用することができる意匠とは、量産可能な意匠であることをいいます。
意匠法は意匠の保護、創作奨励によって産業が発達することを視野においています。そのためには、保護の対象となる意匠はある程度量産可能なものでなければなりません。

工業性のない意匠とは・・・

工業性のない意匠は、主として、以下のとおりです。

  1. 著作物(例えば、純粋美術に属するもの)
  2. 自然物の形態を主な構成要素として同一物の量産が不可能もの(例えば、盆栽、観葉植物など)

新規な意匠であること(新規性)

新規性のない意匠、すなわち公然知られた意匠または刊行物などに記載された意匠は登録を受けることができません。創作者にとっては独自の創作であっても、客観的な新しさのないものは社会に対して新たな価値を提供するものとはいえず、意匠権を設定して保護する必要性がないからです。

また、公知となった意匠と同一の意匠のほか、これに類似する意匠も新規性がないものとされています。ある特定の意匠が知られたとき、その意匠と極似している意匠は独自に創作されたものであっても社会に対して新しい価値を提供したものとはいえないので、新たに意匠権を設定して保護する必要性がないからです。

さらに、先に出願された意匠があって、後に出願された意匠がその先願意匠の一部と同一又は類似しているときには、後願意匠が出願されたときに先願意匠が公知に至っていない場合でも、意匠登録を受けることができません。

意匠の同一・類似・非類似の考え方
 物品が同一物品が類似物品が非類似
形態が同一同一の意匠類似の意匠非類似の意匠
形態が類似類似の意匠類似の意匠非類似の意匠
形態が非類似非類似の意匠非類似の意匠非類似の意匠

意匠は物品の形態なので、対比する意匠が同一か、類似か、非類似かを判別する要素としては「物品」と「形態」の2つがあります。

  • 物品が類似とは、用途が共通し機能が異なるもの(例えばシャープペンシルとボールペンなど)をいいます。
  • 形態が類似とは、形態が異なるものの、全体として観察したときに得られる美的創作の印象(視覚的効果)が共通しているものをいいます。
  • 類否判断においては、特徴的な部分を重視し、ありふれた部分を軽く評価し、意匠の創作価値を正しく評価するように努めます。
出願時に新規性がなくても新規性喪失の例外が適用される場合もある

商品デザインは、モニター調査などを経て決定されることが多く、モニター調査により意匠は公知となり新規性が喪失します。このように新規性が喪失した意匠は全く登録を受けることができないこととすれば、結果として商品化されない意匠を含めて公表前にすべての意匠を出願しなければ保護を受けることができず、出願人に多大な負担を負わせることになり、適正な意匠保護が図れない事態になります。そこで、公知となった意匠であっても、一定の要件のもとで、新規性が喪失していないものとして取り扱うようにしています。ただし、公知後、1年以内に出願することが前提となります。

新規性喪失の例外とされるのは、意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知になった場合、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公知になった場合です。同一の意匠のほか、類似する意匠も対象となり、創作非容易性の規定の適用も除外されています。

容易に創作できた意匠でないこと(創作非容易性)

意匠法では、「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が公然と知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたとき」は、その意匠については意匠登録を受けることができないと規定されています。

たとえ公知意匠と同一又は類似していない意匠であっても、公知意匠に基づいて容易に創作できた意匠には独占排他権を与えて保護するに値する創作価値が認められず、またこれらに独占排他権を認めることは産業活動をいたずらに委縮させるおそれがあるからです。

通常の知識を有する者とは・・・

この規定は、意匠の創作という行為が容易であったかどうかを判断するものですから、判断の基準は「意匠の属する分野における通常の知識を有する者」になります。

「意匠の属する分野」とは、意匠に係る物品をデザイン、製造する分野をいいます。このため、創作非容易性の判断においては物品分野ごとの意匠創作の実情が加味されます。

「通常の知識を有する者」とは、対象となっている意匠の物品分野において、意匠の創作について平均レベルの知識を持っている者、すなわちその物品分野のデザインに携わる平均的なデザイナーを意味します。

公然と知られた形態が基準になる点に注意

この規定の特徴は、創作性判断の基礎を「意匠」とせずに、「形状、模様…」、すなわち物品を離れた『形態』としたところにあります。意匠は物品の外観に関する創作ですから、意匠の創作のヒントになるものは物品が特定された意匠に限りません。自然物や不動産などの形態も意匠創作のヒントになります。そこで、物品を離れた形態も広く創作性判断の基礎とされています。

実際の意匠実務では、特許庁の電子図書館に掲載されている先行特許・実用新案・意匠の資料の他に、インターネットで検索できる法人・個人のウェブサイトに掲載されている写真、ブログなどの記載内容が創作性判断の基準に利用されています。また、日本国内だけでなく外国の写真・資料も引用されます。

意匠登録を受けることができない意匠(不登録事由)

上述した要件を満たす意匠であっても、公益的理由などから次の意匠は登録を受けることができません。

公序良俗を害するおそれのある意匠

例えば、元首の像、国旗または皇室もしくは王室の紋章などを表したものや、人の道徳感を不当に刺激し、しゅう恥、嫌悪の念を起こさせるものが該当します。

他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれのある意匠

例えば、他人の著名な商標を表した意匠など、他人の業務に係る物品と混同を生ずるおそれのある意匠を実施することは、それ自体で不正競争行為を構成する確実性の度合いが高く、流通秩序を害するおそれがあります。このため、このような意匠も登録を受けることができません。

物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠

意匠権によって技術の独占を避けるための規定です。例えば、コネクタ端子のピンの形状や配置のような標準規格となる形態が該当します。

意匠権の登録後

意匠権の発生と消滅

意匠権は、設定登録により発生し、出願日から25年間存続することができます。
意匠権は、特許権や実用新案権と比較して、権利の存続期間が長くなるように法律で規定されています。これには理由があり、統計的にも、15年間存続する意匠権の割合(現存率)が約20%であり、同条件での特許権の現存率約10%と比較して、意匠権を長期間維持する傾向が高いのです。

これらの現存率からは、意匠では、「流行性」や「需要者の好み」という名のもとに絶えずモデルチェンジを続ける物品がある一方で、10年以上にたわり継続される定番商品となる意匠も少なくないといえます。

知財経営戦略からの意匠の活用方法

意匠は物品の外観(デザイン)についての権利ですが、物品の美的外観というのは特別な美ではありません。このため、日常生活で利用する文房具、雑貨などの生活用品はすべて物品の美的外観を備えているといえます。

知財実務では、特許要件に該当せず特許にならない物品の場合、実用新案権の他に、意匠権を取得することが多いです。知財経営戦略の観点からも、権利化までの期間とコストが高くなる特許ではなく、敢えて意匠権を取得している企業も増加しています。

意匠公報の発行

意匠権の設定登録がされると、その内容が掲載された意匠公報が発行され、新たに発生した独占排他権である意匠権について公示されます。ちなみに、意匠では、出願公開制度がないため、意匠公報が発行されない出願(例えば、拒絶された出願)は永久的に公開されません。

意匠公報には、意匠権者の氏名又は名称、住所、出願番号、登録番号、登録日などの形式的事項と、意匠を表した図面、写真、ひな型、見本などの実体的事項が掲載されます。

ただし、秘密意匠を請求した意匠権は形式的事項のみが公開され、秘密として指定した期間、実体的事項は掲載されません。これらの実体的事項は、秘密期間の経過後に公示されます。

意匠権の効力

意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を占有することができます。このため、登録意匠又はこれに類似する意匠について、第三者が権原なく実施したときは、意匠権侵害として、当該効果を差止めたり、損害賠償請求などの民事上の救済措置を求めることができます。なお、刑事罰の対象にもなります。侵害品の輸入に対しては、関税法に基づく輸入差止めを求めることもできます。

関税法(水際対策で利用されています)

意匠権などの産業財産権及び著作権を侵害する貨物は、関税法で輸入禁制品とされており、税関に輸入差止情報提供又は輸入差止請求を行うことができます。
当所において税関に対する手続を代理しています。

意匠の実施とは・・・

意匠の実施とは、業としての意匠に係る物品に関する以下の行為をいいます。

『製造、使用、譲渡、貸し渡し、譲渡又は貸渡しのための申出(展示を含む)、輸出、輸入』

意匠権保護を強化するために、侵害とみなす行為として、登録意匠又はこれに類似する意匠に係る物品の製造にのみ使用する物を業として製造、譲渡、それらのための展示、これらの所持などが規定されています。これを間接侵害といいます。

登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添付した図面などに記載された意匠に基づいて定めなければならず、登録意匠と類似するか否かについては、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づくものとしています。いわゆる侵害鑑定といわれているものであり、高度な専門性と訴訟経験がモノをいいます。

なお、登録意匠の範囲については特許庁に対して判定を求めることができますが、併せて経験のある弁理士に侵害鑑定を依頼して慎重に進めていく必要があります。

特許庁に対する判定請求

特許庁に判定請求すれば、特許庁の審判官が登録意匠と対象となる意匠との類否を判断します。ただし、特許庁が行う一種の鑑定であり、判決のような拘束力はありませんが、侵害判断では弁理士鑑定と並び、有効に活用されています。

部分意匠の効力について

部分意匠に係る意匠権の効力についても、全体意匠に係る意匠権の効力と同じです。例えば、「携帯電話機」の表示部についての部分意匠が登録されている場合には、携帯電話機全体の形態が異なっても、表示部の意匠が共通していれば意匠権の侵害として訴追することが可能です。

関連意匠の効力について

意匠の保護を強化するための制度として、関連意匠制度があります。
意匠登録出願人は、一定の期間内に出願した、互いに類似する複数の意匠について意匠登録を受けることができます。類似する複数の意匠のうち出願人が指定した1つの意匠を「本意匠」といい、他の意匠を「関連意匠」といいます。
本意匠も関連意匠もそれぞれ独自の効力を持つので、関連意匠の登録を受けることにより、広い範囲の保護を受けることができます。

意匠権の移転・実施権

意匠権は、登録意匠および類似する意匠について支配・収益を図ることができる財産権です。意匠権者は、原則として意匠権を自由に移転でき、実施権や質権を設定することができます。

デザイナーは、自己が取得した意匠権をメーカーに移転(譲渡)して譲渡対価を得たり、メーカーに実施権を許諾(ライセンス)してロイヤリティーを継続的に得ることができます。

意匠権の移転は、譲渡などの特定承継による移転と、相続や会社の合併などの一般承継による移転と、に分かれます。譲渡などの特定承継による移転は、特許庁の原簿に登録しなければ効力が発生しません。

実施権は、意匠権者以外の者に対して、登録意匠及びこれに類似する意匠を実施することのできる権原を認めるものです。実施権には、専用実施権と通常実施権とがあります。

専用実施権が与えられると、専用実施権者は登録意匠及びこれに類似する意匠を独占排他的に実施できるため、たとえ意匠権者といっても専用実施権者の許可なく無断で実施すれば侵害になります。

通常実施権者は、自己の実施が認められるに過ぎない権利であり、意匠権者を含め第三者が同じ意匠を実施しても、警告したり、訴追することはできません。

意匠権が制限される場合

晴れて意匠権を取得しても、非常に稀ですが、次のような場合には後願となる意匠権が制限されます。後願の意匠権を実施する場合には、先願の意匠権者の承諾(実施権または使用権の許諾)が必要です。このため、意匠権を取得する場合には、事前に先行調査を行い、出願する場合には迅速に特許庁に出願することが重要です。

意匠権との利用・抵触

意匠の利用とは、他人の登録意匠を自己の意匠の中に取り込んだ状態をいいます。意匠権の抵触とは、権利内容が重なり合うことをいいます。

意匠法では他の登録意匠を利用した意匠でも全体として非類似の意匠であれば登録しています。また、意匠権はその登録意匠に類似する意匠の範囲において他の意匠権と重なり合うことが予定されています。この重なり合う範囲では、後願の意匠権者は自己の登録意匠を実施することができません。

特許・実用新案権との利用・抵触

特許や実用新案の対象である発明、考案は、技術的思想であるため、意匠とは全く異なった価値基準で権利が設定されています。このため、極めて稀ですが、他人の物品に関する特許、実用新案との間で、利用・抵触関係が生じることがあります。

この場合、意匠権が後願であれば、特許権者または実用新案権者の承諾を得なければ、自己の登録意匠を実施することができません。

逆に、特許発明・登録実用新案が先願の意匠を利用し又は先願の意匠権と抵触する場合については、特許法・実用新案法の規定により、後願の発明や考案を実施することができません。

商標権との抵触

意匠権が商標権と抵触するということは、当該意匠の構成要素として商標が取り込まれており、意匠を実施すると他人の登録商標をその措定商品等について使用した状態が生じる場合をいいます。

商標権は、登録商標をその指定商品等について使用することに関する権利ですから、意匠に係る物品と登録商標の指定商品等が非類似であれば、抵触の問題は生じません。

著作権との抵触

著作権は、著作物を複製することについての権利です。著作権は著作物の完成により無方式(文化庁への登録を要しない)で発生することから、意匠登録の出願日と著作権発生日との先後で調整しています。

例えば、意匠権と著作権との抵触の例としては、他人の著作物を意匠に取り入れた場合です。例えば、漫画のキャラクターの図柄をシャツに表して意匠登録を受けた場合、この意匠を実施すれば著作物を複製することになるので、著作権者の承諾が必要です。

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