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特許庁の商標審査基準を徹底的に覚えよう!
商標の類否判断は、特許庁で行われます。
このため、先ず、特許庁が採用する商標の類否判断方法についてしっかり学ぶ必要があります。ここでは、特許庁の商標審査基準[改定第15版]に基づき、商標の類否判断方法を説明します。
商標の類否判断基準は、特許庁の商標審査基準に規定されています。特許庁の商標審査基準をよく理解し、そのうえで商標の類否について自己の見解を主張しましょう。
商標審査基準の規定に基づかない商標類否の主張は、特許庁の審査官や審判官との議論がかみ合わず、登録査定に至りません。また、商標権侵害訴訟の場においても、説得力のある弁論ができなくなります。
このため、特許庁の商標審査基準は、暗記暗唱するくらい読み込んでください。
商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同のおそれがあるか否かにより判断する。
なお、判断に際し、指定商品又は指定役務における一般的・恒常的な取引の実情を考慮し、当該商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊的・限定的な取引の実情は考慮しないものとする。
【一般的・恒常的な取引の実情の例】
【特殊的・限定的な取引の実情の例】
(ア)商標の類否においては、全体観察のみならず、商標の構成部分の一部を他人の商標と比較して類否を判断する場合がある。
(イ)商標の類否は、時と場所を異にする離隔的観察により判断する。
商標の類否は、商標が使用される指定商品又は指定役務の主たる需要者層(例えば、専門的知識を有するか、年齢、性別等の違い)その他指定商品又は指定役務の取引の実情(例えば、日用品と贅沢品、大衆薬と医療用医薬品などの商品の違い)を考慮し、指定商品又は指定役務の需要者が通常有する注意力を基準として判断する。
外観とは、商標に接する需要者が、視覚を通じて認識する外形をいう。
称呼とは、商標に接する需要者が、取引上自然に認識する音をいう。
例えば、次のとおり、称呼の認定を行う。
(例)
観念とは、商標に接する需要者が、取引上自然に想起する意味又は意味合いをいう。
例えば、次のとおり、観念の認定を行う。
(例)
特許庁の商標審査基準によれば、商標の類否は、基本的に、外観・称呼・観念の3つの要素により判断されます。特許庁と裁判所で商標の類否判断が異なることがありますが、特許庁の商標審査基準に基づき商標類否の考え方を理解することが先決。商標登録するためには、特許庁の商標審査基準を習得すれば十分です。
商標の外観の類否は、商標に接する需要者に強く印象付けられる両外観を比較するとともに、需要者が、視覚を通じて認識する外観の全体的印象が、互いに紛らわしいか否かを考察する。
①「Japax」と「JapaX」
(解説)両者は、語尾の「x」の大文字と小文字の差異を有するが、その差はわずかであることから、外観上全体として近似した印象を与える。
①
(解説)両商標の馬の図形は、その構成態様に判然とした差異を有しており、外観上全体として異なる印象を与える。
②
(解説)左図は4個の丸みのある獣の足跡が左右互い違いの歩行跡の如く描かれているが、右図は人間の足跡であるから、外観上全体として異なる印象を与える。
➂
(解説)両者は、欧文字の「E」と「F」を組み合わせてなるが、「+」記号の有無、書体の違い、色の違いから外観上全体として異なる印象を与える。
外観・称呼・観念のうち、外観は、商標の類否にどれだけ影響を与えるか?
私の商標実務の勘所では、外観は約30%以上の影響力があります。商標の外観は、商標の類否判断において大きく影響するものであり、引用商標に類似するとして拒絶理由通知をもらったときは、外観の違いを詳細に分析してください。
商標の称呼の類否は、比較される両称呼の音質、音量及び音調並びに音節に関する判断要素のそれぞれにおいて、共通し、近似するところがあるか否かを比較するとともに、両商標が称呼され、聴覚されるときに需要者に与える称呼の全体的印象が、互いに紛らわしいか否かを考察する。
①相違する音の母音を共通にしているか、母音が近似しているか
「ダイラマックス」 「ダイナマックス」
「セレニティ」 「セレリティ」
(解説)1音の相違にあって、(ⅰ)その音が中間又は語尾に位置し、母音を共通にするとき、(ⅱ)子音が調音の位置、方法において近似(ともに両唇音である、ともに摩擦音であるなどのように、子音表において、同一又は近似する調音位置、方法にある場合をいう。ただし、相違する音の位置、音調、全体の音数の多少によって異なることがある。)し、母音を共通にするとき等においては、全体的印象が近似して聴覚されることが多い。
⇒類似すると判断される傾向あり
②相違する音の子音を共通にしているか、子音が近似しているか
「プリロセッティ」 「プレロセッティ」
「ビスカリン」 「ビスコリン」
(解説)1音の相違にあって、相違する音の子音がともに50音図の同行に属し、その母音が近似しているとき(例えば、口の開き方と舌の位置の比較から、母音エはアとイに近似し、母音オはアとウに近似する。ただし、相違する音の位置、音調、全体の音数の多少によって異なることがある)。
⇒類似すると判断される傾向あり
「ビュープレックス」 「ビューフレックス」
「バーテラックス」 「バーデラックス」
(解説)相違する音が濁音(ガ、ザ、ダ、バ行音)、半濁音(パ行音)、清音(カ、サ、タ、ハ行音)の違いにすぎないとき等においては、全体的印象が近似して聴覚されることが多い。
⇒類似すると判断される傾向あり
①相違する1音が長音の有無、促音の有無又は長音と促音、長音と弱音の差にすぎないか
※「弱音」とは、口の開き方の小さな音(イ・ウ)、口を開かずに発せられる音(ム・ン)、声帯が振動せずに発せられる音(フ・ス)等の聴覚上、明瞭でなくひびきの弱い音をいう。
「モガレーマン」 「モガレマン」
「コレクシット」 「コレクシト」
「コロネート」 「コロネット」
「アドポーク」 「アドポック」
「タカラハト」 「タカラート」
「イースタパック」 「インスタパック」
(解説)音の長短は、長音、促音が比較的弱く聴覚されることから、音調(音の強弱)と関係があり(通常、長音、促音の前音が強く聴覚される。)、また、長音、促音は発音したときに1単位的感じを与えることから、1音節を構成し音節に関する判断要素とも関係がある。
⇒類似すると判断される傾向あり
①相違する音がともに弱音であるか、弱音の有無にすぎないか、長音と促音の差にすぎないか(弱音は通常、前音に吸収されて聴覚されにくい)
「ダンネル」 「ダイネル」
「シーピーエヌ」 「シーピーエム」
「ブリテックス」 「ブリステックス」
「デントレックス」 「デントレック」
②相違する音がともに中間又は語尾に位置しているか
「サイバトロン」 「サイモトロン」
「パラビタオミン」 「パラビタシミン」
(解説)中間音、語尾音は比較的弱く聴覚されることが多い。
⇒類似すると判断される傾向あり
➂語頭又は語尾において、共通する音が同一の強音(聴覚上、ひびきの強い音)であるか
「アプロトン」 「アクロトン」
「バンヴェロル」 「バンデロル」
(解説)これが強音であるときには、全体的印象が近似して聴覚されることが多い。
⇒類似すると判断される傾向あり
④欧文字商標の称呼において強めのアクセントがある場合に、その位置が共通するか
「SUNRICHY」 「SUNLICKY」
(サンリッチーの称呼)(サンリッキーの称呼)
「RISCOAT」 「VISCOAT」
(リスコートの称呼) (ビスコートの称呼)
(解説)音の強弱は音自体からだけでなく、相違する音の位置、全体の音数の長短等によって、相対的にその強弱が聴覚されることが多い。例えば、相違する1音が音自体において、弱音であっても、その前後の音も弱音である場合には弱音とはいえない場合がある。
⇒類似すると判断される傾向あり
①音節数(音数)の比較において、ともに多数音であるか
※仮名文字1字が1音節をなし、拗音(「キャ」、「シャ」、「ピョ」等)は2文字で1音節をなす。長音(符)、促音(「ッ」)、撥音(「ン」)もそれぞれ1音節をなす。
「ビプレックス」 「ビタプレックス」
(解説)1音の相違があっても、音数が比較的多いときには、全体的印象が近似して聴覚されることが多い。
⇒類似と判断される傾向あり
②一つのまとまった感じとしての語の切れ方、分かれ方(シラブル、息の段落)において共通性があるか
「バーコラルジャックス」「バーコラルデックス」
(解説)その共通性があるときには、全体的印象が近似して聴覚されることが多い。
⇒類似すると判断される傾向あり
①2音相違するが、上記(ア)から(エ)に挙げる要素の組合せである場合
「コレクシット」 「コレスキット」
「アレジェール」 「アリジェール」
②相違する1音が拗音と直音の差にすぎない場合
「シャボネット」 「サボネット」
➂相違する音の一方が外国語風の発音をするときであって、これと他方の母音又は子音が近似する場合
「TYREX」 「TWYLEX」
(タイレックスの称呼)(トウイレックスの称呼)
「FOLIOL」 「HELIOL」
(フォリオールの称呼)(ヘリオールの称呼)
④相違する1音の母音又は子音が近似する場合
「サリージェ」 「サリージー」
「セレラック」 「セレノック」
➄発音上、聴覚上印象の強い部分が共通する場合
「ハパヤ」 「パッパヤ」
⑥前半の音に多少の差異があるが、全体的印象が近似する場合
「ポピスタン」 「ホスピタン」
外観・称呼・観念のうち、称呼は、商標の類否にどれだけ影響を与えるか?
私の商標実務の勘所では、称呼は約60~70%以上の影響力があります。商標の称呼は、商取引において判別ポイントそのものであり、商標の類否判断において極めて大きく影響します。先行商標調査や特許庁の実務では、商標の称呼がどれくらい乖離しているかの見極めが重要です。似ているような称呼をもつ商標同士は、基本的に類似すると判断されるため、商標審査・審判で商標の非類似にもっていくことに苦戦します。ただし、結合商標である場合には、有名な最高裁の判決(結合商標の類否判断基準で紹介)があるため、議論の余地が出てきます。
商標の観念の類否は、商標構成中の文字や図形等から、需要者が想起する意味又は意味合いが、互いにおおむね同一であるか否かを考察する。
①「でんでんむし物語」と「かたつむり物語」
(解説)「でんでんむし」と「かたつむり」の語は、いずれも同じ意味を表すものとして一般に理解認識されている。
①「EARTH」と「terre」
指定商品は、共に第9類「テレビ」で共通
(解説)当該指定商品に関する我が国の需要者の外国語の理解度からすれば、「EARTH」からは「地球」の観念を生じるが、フランス語「terre」(テール)からは「地球」の観念を生じないため観念は異なる。なお、商品名等にフランス語が一般に採択されている商品等の分においては、当該観念が生じる場合がある。
②
虫
(解説)右の図形は「虫」ではなく、「テントウムシ」と認識されるため、観念は異なる。
➂
(解説)左の図形は「ギター」と認識され、右の図形は「ヴァイオリン」と認識されるため、観念は異なる。
外観・称呼・観念のうち、観念は、商標の類否にどれだけ影響を与えるか?
私の商標実務の勘所では、観念ではそれほど揉めません。すなわち、各商標から生じる観念は、一般常識的な観念で特定されます(例えば広辞苑などが根拠)。このため、各商標で認定された観念を否定することはとても困難です。各商標で認定される観念同士が同一又はよく似ているのであれば、少なくとも観念が類似すると判断されます。一方、各商標で認定される観念が異なるのであれば、観念は相違します。なお、観念が異なるからといって、常に商標が非類似になるとは限りませんが・・・
いわゆる「しょうざん事件」に係る最高裁判所の判決において示された審決取消訴訟における商標の類否の判断基準を、いわゆる「小僧寿し事件」に係る最高裁判所の判決の示した判断基準に当てはめて説明します。
【小僧寿し事件】最三小判平成9年3月11日(平成6年(オ)第1102号)民集51巻3号1055頁
[判旨]「商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。右のとおり、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、右三点のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。」
商標の類否は、対比される商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかにより判断されます。
この誤認混同を生ずるおそれは、登録商標と被告標章とについて、外観、称呼、観念の3要素を対比しながら、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察して行われます。
登録商標と被告標章との外観、称呼又は観念の3要素のうち類似する要素があることは、誤認混同を生ずるおそれを推認させる要素になるとしても、それだけで直ちに両者が類似すると結論付けることはできません。いずれかの要素において類似する点があったとしても、他の点において顕著な違いがある場合や、取引の実情から出所の混同を生じさせるおそれが認められないという場合は、類似しないことも十分あり得ます。
商標の類否を判断するための基準となる者は、その商品の平均的な取引者や一般の需要者です。
また、観察方法としては、需要者の購入態様の実態にもよりますが、通常、商標自体を並べて比較する対比的観察ではなく、時と場所を隔てて、記憶によって対比したときに誤認混同を生じるおそれがあるかという離隔的観察が採用されています。
さらに、商標の類否は商標を全体的に考察すべきですが、その際、結合商標などにおいては、当該標章の中で識別力を有する部分を要部とし、その部分を抽出し、その部分を中心として観察する、「要部観察」を行うことも認められています。
「要部観察」については、商標実務で重要な論点になりますので、結合商標の類否判断基準で詳しく説明します。
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